東京高等裁判所 昭和43年(く)28号 決定 1968年3月21日
少年 K・G(昭二七・二・二八生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
一、本件記録を調査するのに、浦和地方裁判所熊谷支部が、昭和四三年二月五日少年K・Gを中等少年院に送致する旨の決定をしたのに対して、少年の法定代理人たるK・Rから同月七日審判不服申立書と題する書面を提出し、抗告をしたが、同月一四日付で「先日審判不服申立書を提出致しましたが、本日長男G(少年を指す)より便りがあり、前非を悔ひ一日も早く帰れるよう努力するから再審の手続を取消してくれとのことですので、宜しく御願申上ます」と記載された「審判不服申立書取消の件」と題する書面を提出していることが明かである。
右の「審判不服申立書取消の件」と題する書面の提出は、K・Rがさきに法定代理人としてなした抗告を取下げたものと解されるが、少年法は、三二条によつて法定代理人のなす抗告を認めているが、その取下げについては刑事訴訟法と異なり、なんらの規定を設けていないので、本件抗告の取下げが有効かどうかの問題に当面するのである。
二、少年法上の抗告については、その取下げについてなんらの規定はないが、一般的に、その取下げを許さないとしなければならない合理的理由があるとは考えられないから、少年法上の抗告についても、その取下は許されるものと解すべきである。
そこで、少年法上の抗告の取下げについて、刑事訴訟法の上訴取下げに関する規定が類推適用される余地があるかが問題になるが、法定代理人の上訴の取下げを定めた三六〇条の類推適用については、次に述べる理由により、これを否定せざるをえないのである。
刑事訴訟法にあつては、法定代理人がする上訴は、三五六条により、被告人の明示した意思に反してこれをすることができないものとする反面三六〇条、刑事訴訟規則二二四条の二により、法定代理人が上訴の取下げをするときは、これと同時に被告人のこれに同意する旨の書面を差し出さなければならず、これを欠くときは法定代理人がなした上訴の取下げは無効のものと定められているのであり、いわば法定代理人は上訴一般につき独立代理権者たる地位にあるにすぎないものというべきである。
これに反して、少年法三二条では、少年は末だ思慮分別が成人ほど充分でなく、裁判所のなした保護処分に対し適正妥当な判断をする能力を必ずしも持つていないため、法定代理人は少年の意思に反してでも抗告の申立をすることができるように定められており、ここでは、法定代理人は、抗告一般につき少年のための代理権ではなく、固有権者たる権能を与えられているものと解すべきであるから、少年の意思を問わず、従つて少年の同意書の差し出しがなくとも、有効に抗告の取下をなしうると解するのを妥当としよう。
三、従つて前記のごとく法定代理人K・Rのなした抗告の取下は有効というべく、従つて本件抗告の申立は取消された状態になつているのに、原審が抗告の効力が末だ存続しているものと解して、事件を当審に送致した手続は、規定に違反したことに帰するから、刑事訴訟法四二六条一項、少年審判規則五〇条にのつとり、本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 河本文夫 判事 東徹判事 藤野英一)